シャーロット・シームズ(1章4話)

 シャーロット:さて、結論から言うと支配人の頭部を損傷させた犯人は……

        

 シャーロット:弟のファビオ君だ

    ミーナ:ええっ!?

   ファビオ:そんな俺が兄さんを殺すはずないだろ!

    ミーナ:そうです……支配人さんとファビオさんは私から見ても仲良く見えました 殺すだなんてそんなこと……

 シャーロット:ミーナ 仲が良いから……なんて 少し短絡的なんじゃないかな

    ミーナ:で、ですが……

 シャーロット:ボクだって根拠もなしに言ってるわけじゃないよ ほら、ここを見て

    ミーナ:ええと……支配人さんのシャツの襟元が開いていますね

 シャーロット:そう、彼は支配人として オーナーの……メディーラの期待に応えるべく服装にもとても気を遣っていた

 シャーロット:少しの汚れを気にして 職務中に慌てて着替えに行く位はね

 シャーロット:なのに、シャツはだらしなく開襟したままだ

   ファビオ:あ、暑かったんじゃないか?ここは照明が多いから作業していれば汗なんてすぐ出てくるし

 シャーロット:ここは準備中とはいえ観覧席からは気軽に会場が見学できるようになっていた

 シャーロット:彼は服についたほんの少しの汚れさえ気にして着替えていた

 シャーロット:そんな彼の性格上、客の目に入る可能性のある場所でシャツをだらしなく着るなんてことはあり得ないだろう

 シャーロット:百歩譲ってそうだったとしてもシャツのボタンが1、2個飛んでしまっている

 シャーロット:暑いからってわざわざ自分でボタンを引きちぎるなんてますますあり得ない

    ミーナ:確かに……

 シャーロット:恐らく何らかのトラブルでつかみ合いの喧嘩でもしたんだろう

   ファビオ:…………

 シャーロット:そしてファビオ君の今着ているシャツ それは支配人のものだね

   ファビオ:え……?

 シャーロット:キミも元々支配人と同じ白いシャツを着ていたし 本当に僅かな汚れだったから気付かれないと思ったかもしれないけど

 シャーロット:その汚れた襟元……それはさっき支配人が着替えてファビオ君が洗濯すると申し出たシャツだ

   ファビオ!?

  スキャン音:~♪

 シャーロット:うん、念のために照合してみたけど間違いない

 シャーロット:恐らくだけどつかみ合いになった時 ファビオ君の服もボタンが飛ぶなり破れるなりしちゃったんじゃないかな~

 シャーロット:それでとりあえず手元にあった支配人のシャツを拝借したってところだろう

   ファビオ:……た、確かにこれは兄さんのシャツだ でもそれは俺のシャツが汚れたから借りただけで……

 シャーロット:うーん、やっぱりこっちを出しちゃった方が早いか

 掃除ロボット:シャーロット サマデスネ オサガシノモノハ コレデショウカ?

 シャーロット:うん、ありがとう

 掃除ロボット:デハ

    ミーナ:シャーロットさん そのシャツはまさか……?

 シャーロット:そうだよ 兄のダミアーノ君と揉み合いになった時ファビオ君が着用していたシャツだ

   ファビオ!!

 シャーロット:実はボク、最初ファビオ君が駆けつけた姿を見た瞬間にピーンときたんだよね

 シャーロット:ファビオ君のシャツもまだこの船のどこかにあるはず だから探してって さっきの清掃AIに通信で依頼しておいたんだ

    ミーナ:なるほど 流石はシャーロットさんです

  スキャン音:~♪

 シャーロット:うん ファビオ君の汗の成分と僅かだけど支配人の血液反応もあるね

 シャーロット:さて、ファビオ君 証拠は揃ったわけだけど

 シャーロット:そろそろ真実を話してくれるかい?

   ファビオ:……もう 言い逃れできませんね

   ファビオ:その通りです 俺が兄を殺しました

    ミーナ:ファビオさん……

   ファビオ:兄に……今回の大会で最後にしろって そう言われたんです……

    ミーナ:最後というのはもしかして……

   ファビオ:ええ、ゼノンザードです

   ファビオ:兄が、なかなか芽が出ない俺にしびれをきらしていることは何となく知っていました

   ファビオ:ゼノンザードを辞めさせた後は自分の仕事を本格的に手伝わせようと考えていたようです

   ファビオ:元々諦めさせるつもりでいたのでしょうが 恐らくシャーロットさんの一言がきっかけで、兄は……

 シャーロット:…………

    ミーナ:それで支配人さんと口論に……?

   ファビオ:ええ……それでついカッとなって掴みかかったら揉み合いになり

   ファビオ:その時兄は背後にあった照明で頭を強打し倒れ そのまま動かなくなりました

   ファビオ:頭からは血がたくさん出て……怖くなった俺は、その場から逃げてしまったんです……

    ミーナ:でもファビオさんはここに戻ってきましたよね その時どうして自分がやっていないなんて……

   ファビオ:本当は自主しょうと思ったんです

   ファビオ:でも、戻ってきたら兄の死は事故だということになっていた

   ファビオ:そこでつい魔が差してしまいました…… 血だまりの中 息絶えている兄の姿を見ながら俺は

   ファビオ:この状況ならまだゼノンザードが続けられるんじゃないかって 思ってしまったんです……

    ミーナ:…………

 シャーロット:……これを見てくれたまえ ファビオ君

   ファビオ:それは……?

 シャーロット:支配人の手帳だ 遺体の近くに落ちていたよ

 シャーロット:これによると、キミの兄は随分キミの夢のため尽力していたようだね

   ファビオ:え、それは どういう意味ですか……?

 シャーロット:『20XX年X月ロ日 ファビオがゼノンザードの大会で2位になった

   ファビオ!?

 シャーロット:『公式戦ではないが 夢の第一歩には違いない』

 シャーロット:『身内の欲目かもしれないが ファビオにはきっと才能がある できるだけ私がサポートしてやりたい』

 シャーロット:『20XX年〇月△日 ようやくメディーラ様に直接話ができる立場になった』

 シャーロット:『これでもっと気に入られればファビオのザ・ゼノン入りもお願いすることが出来るかもしれない……』

   ファビオ:兄さん……

 シャーロット:これは支配人の日記だ 今読んだのは一部だけど支配人は本気でキミの夢を応援していたようだね

   ファビオ:でも 今回で最後にしろって……

 シャーロット:日記にはまだ続きがあるよ

 シャーロット:『あまり時間がない……しかし今回のバトルでメディーラ様の目に留まればチャンスが貰えるかもしれない』

 シャーロット:『その為に、身内贔屓と笑われるのを覚悟で弟のバトルが派手に見える様な演出をして欲しい とスタッフに頭も下げた』

 シャーロット:『弟にはこれが最後のゼノンザードだというくらい本気でやれ と伝えるつもりだ』

 シャーロット:『だが、あの子がやりたいと言うならできる限り続けさせてやるつもりでいる 私はファビオの兄だから……』

   ファビオ:……っ

 シャーロット:そしてここからが本題だ

    ミーナ:本題……ですか?

 シャーロット:ファビオ君、厳密に言えばキミは兄を殺してはいなかった

   ファビオ:え……?

    ミーナ:あの、だったら誰が支配人さんを……?

 シャーロット:(プレイヤー)クン キミならもう分かっただろ?

 プレイヤー:(スッと血だまりを指さす)

 シャーロット:そう、正解だよ 流石はボクのコンコードクンだ

 シャーロット:ファビオ君ともみ合いになって頭部を強打して倒れた時 支配人は恐らくまだ生きていた

   ファビオ:……は?

 シャーロット:キミが逃げた後 意識を取り戻した支配人は恐らく自分と弟が揉めた事を思い出し

 シャーロット:キミを残して死ぬわけにはいかないと朦朧とした意識の中 一度は立ち上がった

 シャーロット:しかし、血だまりで足を滑らせたんだろうね

 シャーロット:ほら 足跡が残ってるだろう?

 シャーロット:そして支配人は最初に自分が頭をぶつけた際 衝撃で倒れた照明に再び頭をぶつけて今度こそ……

   ファビオ:……!?

 シャーロット:同じ場所を強打したのは恐らく偶然だろうけど…… それがトドメになったのは間違いないだろう

 シャーロット:つまり……最初の事故が起こった時 キミが逃げずに助けを呼んでいれば支配人は死ぬことはなかった

   ファビオ:……っ!!

 シャーロット:だから厳密に言えばこれは事故で、キミは支配人を殺していないってわけだね

   ファビオ:でも……やっぱり兄さんを殺したのは俺じゃないか……

    ミーナ:ファビオさん……

   ファビオ:うぅっ……俺は何てことを…… 兄さん…… 兄さーーん……っ!!


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